小児期の長引く咳について

はじめに

「風邪は治ったのに、咳だけがずっと続いているんです…」

そんな声を、外来でよくお聞きします。熱も下がって元気なのに、咳だけが2週間以上、夜も眠れないほど続く。ご家族もとても心配ですよね。

今日は、そうした「長引く咳」の原因や治療法、おうちでのケアについて、わかりやすくお話します。

原因について

普通、風邪による咳は 50%が約10日、90%が約25日以内に治まるとされています。つまり多くは3週間ほどで良くなるのですが、それを超えて「3週間以上」続く場合には「遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)」と呼び、通常より長引く咳として注意が必要です。さらに8週間以上続く場合は「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」といいます。

咳が長引く原因として、初期の急性期ではウイルス感染症が多いですが、咳の期間が長くなるほど感染症以外の原因である可能性が高くなります。

小児(0〜15歳)の場合、かぜの後に気道の過敏性(敏感さ)が残って咳が続く「感染後咳嗽(かんせんごがいそう)」がよく見られます。また、「咳喘息(せきぜんそく)」や「アトピー性咳嗽(あとぴーせいがいそう)」といった気道のアレルギー性の咳、鼻のアレルギー(アレルギー性鼻炎)による後鼻漏(こうびろう、鼻水が喉にまわること)に伴う咳、そして典型的な気管支喘息など、さまざまな原因が考えられます。

以下に、遷延性咳嗽を引き起こす代表的なものをまとめました。

咳の原因特徴よくある年齢治療や対応のポイント
感染後咳嗽風邪のあとに咳だけが残る。治りかけのノドがイガイガしやすく、乾燥やちょっとした刺激で咳反射が起こりやすい状態。気道粘膜の感染による炎症で、気道過敏性が亢進している。幼児〜小学生基本は自然に治る。無理に止める必要なし。
咳喘息気道粘膜にアレルギー性の慢性的な炎症を起こしている状態。気道過敏性の亢進から、夜や運動後に咳込みやすい。喘息の前病変であり、咳のみで、ゼーゼー、ヒューヒューは伴わない。小学生〜中学生気管支拡張薬を使用する。またステロイド吸入薬で炎症を抑える。放っておくと本格的な喘息に進むことも。
アトピー性咳嗽アレルギー体質の子に多く、喉の違和感と乾いた咳。気道過敏性の亢進はなし。小学生〜中学生アレルギーの薬や吸入薬が効く。喘息には移行しにくい。
鼻水が原因の咳(アレルギー性鼻炎など)鼻水が喉に落ちて咳が出る。朝方や夜に多い。幼児〜学童鼻炎の治療が大切。鼻炎が治れば咳も治ることが多い。
気管支喘息気道粘膜にアレルギー性の慢性的な炎症を起こしている状態。風邪を引いた際などに、発作を起こす。発作時には、気管支が攣縮し、ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音を伴い、呼吸困難を起こす。0〜5歳に多い発作時には気管支拡張薬を使用する。改善が乏しい場合は入院も検討する。発作が改善した後も、長期の内服やステロイド吸入薬などによる、気道の慢性的な炎症に対する治療が必要。しっかり治療すれば日常生活に支障なし。
百日咳最初の1〜2週間は一般的な風邪症状で始まり、その後けいれんのような激しい咳が2~6週間続く。夜間に咳き込みが悪化したり、咳き込み後の嘔吐が見られる。熱はないことも多く、咳嗽以外の症状に乏しい。乳児では無呼吸発作を起こすこともある。咽頭ぬぐい液からのPCR検査や培養検査で判明する。乳児〜学童(ワクチン未接種や効果切れで再発も)早めの抗菌薬内服が大事。まわりの人へのうつりやすさにも注意する必要がある。
マイコプラズマ肺炎肺炎を起こすことが多いが、元気はあり、「歩行性肺炎」とも言われる。空咳が目立ち、数週間〜数ヶ月の間続く。学童に多い。咽頭ぬぐい液からの抗原検査やPCR検査で判明する。小学生〜中学生抗菌薬が効くこともあるが、咳はしばらく残りがち。

咳は止めるべき?

「咳止めください」と言われることも多いのですが、実は“咳止め”は万能薬ではありません。

咳は本来、体が異物やウイルスを外に出そうとする大事な防御反応です。そのため、無理に咳を止めると、逆に治りを遅らせてしまうこともあります。

特に、長引く咳の場合は原因をしっかり見つけて治すことが何よりも大切です。

市販の咳止めや、医療用の「鎮咳薬」は、子どもに対してはあまり効果がないとされていて、使い方にも注意が必要です。コデインという成分は、今は子どもには原則使わないようになっています。一方、漢方薬の麦門冬湯(ばくもんどうとう)は、喉の乾燥からくる咳に効くことがあり、小児科で処方されることもあります。

おうちでできること

咳が続くと、本人も家族もぐったり…。そんなときにできる、おうちでのケアをご紹介します。

①加湿をする:乾燥した空気は咳を悪化させます。加湿器や濡れタオルで湿度を保ちましょう(50〜60%が理想)。
②水分をこまめにとる:喉の粘膜が潤うと、咳が落ち着きやすくなります。
③夜に眠れないとき:背中を少し高くしたり、ぬるま湯を飲ませたり、麦門冬湯などで症状を和らげてあげてください。
④鼻水が出るとき:鼻水が喉に落ちて咳の原因になることもあります。鼻吸い器や鼻洗いも有効です。
⑤タバコの煙を避ける:家族に喫煙者がいる場合は、必ず屋外で。副流煙は咳の大敵です。

長引く咳はどのタイミングで受診すべき?

以下のような場合は、早めに小児科を受診してください。

・咳が3週間以上続いている
・咳が夜も止まらず、眠れないほど
・ゼーゼーしたり、息苦しそう
・咳のあとに嘔吐を繰り返す
・熱がぶり返した、元気がない

最後に

咳が長引くと、保護者の方も不安になって当然です。「風邪だからそのうち治るかな?」と思っていたのに1週間、2週間、3週間と続くと、何か重大な病気ではないかと心配になりますよね。

でも、咳にはちゃんと理由があります。そして、その多くはしっかり診断して、正しく治療すれば良くなるものばかりです。

気になる際は、ご遠慮なく、お近くの医療機関にご相談ください。

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